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なぜムスリムの有権者がトランプを支持しているのか

なぜムスリム有権者がトランプを支持しているのか

(Translated from "VOX", 3 March, 2016)

ムスリムおよびイスラム教の問題は、2016年の大統領選において特段重要な論点となっている。サン・バルナディオやパリで発生したイスラム国絡みのテロや、ドナルド・トランプ候補による「イスラム教徒の入国禁止」発言がその原因だ。しかし、国内に居住するムスリム有権者がこの選挙をどう見ているかについて言及した記事は少ない。

水曜日、「アメリカ系イスラム教徒連合」というムスリムの人権団体はスーパー・チューズデーにおける1,850人のムスリム有権者の投票行動を公開した。その内容は驚くべきものであった。

ムスリム有権者の約半数(46%)がヒラリー・クリントンを支持していた。サンダースが25%で、トランプは11%だ。

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(photo quoted from "cair.com")

なぜムスリム有権者がトランプを支持するのか?

もうおわかりだろう。ご覧の通りだ。トランプは、ムスリムの入国禁止を唱える唯一の候補者であるにも拘わらず、共和党では第一等の支持を集めているのだ。
トランプの成功は、いつもメディアの予想を覆してきた。まるで漫画の登場人物のように攻撃的な大金持ちで、オレンジ色の服とおかしな髪型で知られるテレビ・スターで、およそ政治についての経験など皆無であった。政治評論家やメディアは彼の人気の秘訣をいまだに説明できないでいる。
よく言われている説明としては、セクシズムやレイシズム、その他の偏狭でポリティカル・コレクトではない価値観に未だに固執している層が、彼らを玉座から追い落としたマイノリティへの復讐を果たすべくトランプに投票している、ということが挙げられる。つまり、トランプはレイシストであり、多くのアメリカ人がそれに共感しているからこそ人気だということだ。

しかし、この説ではムスリムの共和党員の間でトランプが人気であることを説明できない。マルコ・ルビオは2番目にムスリムから支持されているが、たったの4%にすぎない。他の候補はトランプと比べてよほどムスリムに配慮した立場であるにも拘わらず、ほとんど支持されていない。たとえば共和党主流派のジョン・ケーシック候補への支持率は1%にすぎない。

経済こそが重要なのだ、愚か者め!

ムスリム有権者がトランプを支持する理由を説明する一つのカギは、ビル・クリントン元大統領の有名なスローガン「経済こそが重要なのだ、愚か者め!」にあるかもしれない。

先述の人権団体は、ムスリムたちが投票に当たって重視する事柄についても調査結果を公表している。見てみると、イスラム嫌悪や市民権、外交政策といった問題よりも、飛び抜けて経済問題への関心が高いのだ。

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(photo quoted from "cair.com")

じつに38%のムスリム共和党員が経済問題がもっとも重要だと答えている。イスラム嫌悪の問題はぐっと下がって14%にすぎない。一方、民主党ムスリムイスラム嫌悪こそが最大の問題であると考えている。
経済問題を重視するムスリムにとっては、トランプの経済的な成功と卓越したビジネスマンとしての実績はあまりにも魅力的に映るのだろう。共和党には他に大金持ちでビジネスマンの経歴を持つ候補はいない。

安全保障の専門家で、連邦政府にテロ対策や過激思想対策について助言した経験もあるMohamed Elibiaryは、投票に積極的に参加したテキサスのムスリム共和党員を誇りに思うと述べた。Elibiaryによれば、ムスリム共和党員は「25歳から55歳の働き盛りの年齢層が多く」、「この年齢層はキャリアや、子供たちや、財政的な実現可能性のことを考慮する傾向があるため、ムスリム共和党員も同じく経済問題を何よりも重視するということになる」という。

Elibiaryは語る。「ムスリムたちも大学を卒業し、キャリアを重ねるにつれて、自分たちを苦しめている政治的なイスラム嫌悪の問題もじつは貧困や経済の停滞に起因しているということを徐々に理解しはじめるのだ」
すなわち、ムスリム有権者たちはイスラム嫌悪を問題視しているからこそ、その原因である経済問題を最初に解決したいと考えているということだ。

利益団体からの圧力とは無縁?

トランプの富がムスリムにとって魅力的に映る理由は、アメリカン・ドリームへの憧憬だけではない。トランプはこれまでの共和党候補と異なり、経済的な援助を与えてくれる大口の寄附者のいいなりになる必要がないという点が挙げられる。

Elibiaryによれば、「わたしの故郷、テキサス州ダラスでもトランプを支持する者がいた。彼はトランプだけが排外主義やイスラム嫌悪の利益団体*1と関係がなく、ムスリムを忌憚なく彼のビジネスに加えてくれるだろうと期待していた」

一部のムスリムと非ムスリムの評論家たちは、トランプの反ムスリム的発言はパフォーマンスにすぎないと考えている。そして、もし彼が大統領になれば、ムスリムを攻撃することになど興味を持たず彼のビジネス、すなわちアメリカ経済の復興に取りかかると見ているのだ。

筆者にとっては、トランプがムスリムを嫌悪していないという可能性に賭けることはあまりにもリスクが高いように思える。しかし、少なくないムスリムがすでにこのベットに参加している。それほどまでに、トランプの成功と富はある種の説得力に満ちているのだろう。

www.vox.com

*1:訳註:宗教保守の勢力を指していると思われます