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世界から無視される安倍晋三(下)

世界から無視される安倍晋三(下)

(Translated from "The Japan Times" 13 January, 2016)

安倍首相の支持者たちは「日本を普通の国にする」という首相の方針に諸手を挙げて賛同しており、彼の政策が日本を再び影響力のある国家へと押し上げると信じている。しかし、影響力を獲得するということは自国の安全保障について完全な責任を負うということでもある。もし安倍首相が米国から与えられた憲法を破棄するというのならば、その次のステップは米国による「核の傘」から離脱し、独自の安全保障体制を構築することとなるだろう。このシナリオは、日本による防衛費の負担が少なすぎると批判を強めるトランプ候補が大統領の座を手にしようとしている今、更に現実味を増している。

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Cato InstituteのDoug Bandowは、ワシントンは日本に毎年1840億ドル*1の防衛費を支援するべきだと提言している。日本の防衛予算は460億ドルなので、合計で2300億円*2にのぼり、中国の2160億ドルを超える*3。これは日本のGDPの5%を超える金額となるため、他の工業国と比しても2倍以上の比率となる。

だが、果たしてこの巨額な支出は現実的といえるだろうか。それ以上に、それは日本にとって最善の手段だろうか。あるいは、破滅的な戦前回帰への道ではあるまいか。

日本は世界の一員として自国が示してきた伝統や役割を、今一度振り返る必要があるだろう。日本は常にその豊かさを世界に羨望されてきた。捕鯨問題やイルカ漁の問題で強硬姿勢を示し、わざわざ世界を不興を買う必要はないのだ。

日本はかつて軍国主義の狂気に冒され、最終的には広島と長崎に原子爆弾を投下されるまでに至った。筆者の心配は、安倍首相がその国粋主義的な思想や防衛予算の拡大、兵器輸出、そして最高法規として洗練されていない改憲案を強行することによって、かつて来た道を再び戻ろうとしていることだ。

安倍首相を含む日本の指導者たちは、米軍最高司令官であり、連合国軍欧州戦線の総帥としてヒトラーを打ち倒した後にアメリカ合衆国大統領の地位に就いたドワイト・D・アイゼンハワー大統領の言葉を、肝に銘じておかねばなるまい。「製造されたあらゆる戦闘機、機関銃、そしてミサイルは、根本的にはその日の食糧や衣服にさえ困窮している貧者からの略奪の結果だと考えねばなるまい。兵器による消費というものは、単なる国家予算の支出ではない。それは労働者の労苦、科学者の才能、そして子供らの希望を消費することに他ならないのだ。現代の最新爆撃機を1機製造するだけの費用で、煉瓦造りの学校を30件建設できる。また、小麦にすれば8000トンに値するのだ」*4

もちろん、軍国主義の暗い影が世界を覆いつつあるという事実は認められねばならない。中国は周辺国への威嚇を繰り返し、同国の覇権を確実にするべく海上に人工島を建設し、南シナ海に帝国の版図を広げようとしている。中国はこれをやり通すことが可能だろう。堅固なかつ巧妙な独裁体制を確立しており、指導力と勇気に欠ける周辺国はこれに挑戦できないからだ。

こうした軍国主義に対抗する手段は国際協調であるべきだ。また別の軍国主義であってはならない。日本、中国、そして大洋州やアフリカをはじめとするいかなる国も同じ地球の隣人であり、相互関係と貿易の中で生きているからだ。20世紀は、ナショナリズムによって全てが破壊された世紀であった。今や科学技術の進歩により、世界中に蓄積された兵器は地上の全てを破壊できるまでの威力を有している。今必要とされているのは新しい秩序や国際協力の方法、そして想像力であり、真のグローバル化を達成するための発明なのだ。

地球温暖化や食糧・飲料水の供給、そして格差の是正をはじめとする喫緊の課題が世界中に横たわっている。日本はこうした課題に対して、驚異的な長寿を可能にした和食をはじめとして、持続可能な世界の構築に対して裨益し得るところが少なくないはずだ。日本は戦争の惨禍を最もよく理解している国でもある。「戦争の放棄」を定めた憲法は、今なお平和主義の実践として尊敬を集めている。

安倍夫妻に子がないことを残念に思う。彼の生涯は亡き祖父の野望を実現させることではなく、次世代に美しく豊かな地球を遺すことに費やされるべきだ。真のグローバリズムとは、地上のあらゆる資源を共有することを意味する。安倍首相は、いつ目を覚ますのだろうか。

(筆者のKevin Raffertyはジャーナリスト、評論家。元大阪大学教授。)

www.japantimes.co.jp

*1:訳註:約21兆6000億円

*2:訳注:27兆円

*3:2014年のストックホルム国際平和研究所の推計。国際戦略研究所によれば1290億ドルとされている。

*4: “Every gun that is made, every warship launched, every rocket fired signifies, in the final sense, a theft from those who hunger and are not fed, those who are cold and are not clothed. This world in arms is not spending money alone. It is spending the sweat of its laborers, the genius of its scientists, the hopes of its children. The cost of one modern heavy bomber is a modern brick school in more than 30 cities. … We pay for a single fighter plane with a half million bushels of wheat.”