移民と共に悲しむだけでなく、手を取って闘おうートランプから彼らを救うために
"Don’t Just Grieve for Immigrants—Fight for Immigrants"
(Translated from "The Nations", 8th November 2016)
数百万の家族と友が喫緊の危険に曝されている。一部は、ドナルド・トランプに手渡される名簿に名前が掲載されてしまっている。彼らを注意深く見守り、いつでも彼らのために立ち上がれるように準備する必要がある。
移民、ムスリム、有色人種にとって、今回の選挙結果は直ちに死を意味するものでしかなかった。我々に覆い被さった剥き出しの差別主義が米国の過半を支配していたということが明らかになった。正義を気にかける善き白人たちは、今何ができるかを必死に考えている。彼らの関心は、差別主義ファッショがホワイトハウスを占拠した後、州の権利によってどんな政策が実行できるかを考えている。しかし、さし当たり目前の困難と闘うこともより重要だ。我々の人生においてもっとも気にかけるべきマイノリティは、今何をしているだろう?
ドナルド・トランプが立候補を表明した2ヶ月後、ボストンのとある兄弟がトランプの名前を掲げて差別犯罪に着手した。ScottとSteveの兄弟は58歳のGuillermo Rodriguezの寝込みを狙って、彼の顔面に排泄した。そのうえ、「ドナルド・トランプは正義だ!」と叫びながら、金属の棒でGuillermoを打ちのめした。Scottは逮捕後、警察官に「こうした不法移民は、すべて本国送還される必要がある」と供述した。
Rodriguezには、兄弟への判決言渡しに先立って意見陳述をする機会が与えられた。ちなみに、兄弟への懲役刑はドナルド・トランプの任期よりも短くなる見通しであった。元農民のRodriguezは「私は実際、数年前に永住権を獲得しています。もしそれが公文書に記録されていなかったとしても。私は断じて、このような扱いを受けねばならないようなことはしていません」
Rodriguezが実際に永住権を持っていたかこの際重要ではない。大切なことは、この兄弟のように、移民の人権をことごとく軽視するレイシズムに凝り固まった人間がいるということだ。
選挙結果の嵐が吹き荒れると、恐怖に駆られた移民とその家族の間で絶え間のない電話とテキストメッセージの交換がはじまった。アメリカで生まれた移民二世から、より最近アメリカに到着したニューカマーたちの間で。これは彼らが孤独を感じたためであり、また、明らかな恐怖を感じたからともいわれている。とりわけ、オバマ政権の元で送還を猶予された若い不法移民たちは恐怖に駆られている。もはや「名簿」に載っていることは明らかだからだ。トランプは送還猶予措置を就任初日に終了させると明言している。
結局、有権者の半数はラテン系、とりわけメキシコ人を頻りに蔑視ししていたトランプを選択した。上述の兄弟による事件を受けて「彼らはこの国を愛していて、この国が再び偉大になることを願っていたに違いない。感情的になりすぎたんだ」とコメントした男に一票を投じた。我々、つまりラテン系や移民にとって、この結果はこの国の半分が我々を見捨て、レイシズムを肯定したという意味でしかない。そうでないとしても、結局このような男に満足して、隣人たちの半分が味方したということは揺るがない。
次の4年間は限りなく困難なものになるだろう。これを意識することは、我々の社会における権力勾配に自覚的になるということでもある。
今や、今まで以上に、あらゆる進歩的リベラル、とりわけ白人の進歩的リベラルは、マイノリティとの連帯を疑う余地のない形で宣言しなければならない。トランプの勝利に対抗する形で、標的ににされた有色人種の人々の状況をアピールしなければならない。とりわけ、不法移民たちに危険が迫っている。トランプによって嘲笑と憎悪の対象とされ、そのために選挙戦に勝利した、まさにその移民たちだ。社会正義を気にかける善き白人には、ぜひこうした移民たちに電話を入れてやってほしい。我々はまだ生きており、これからも共に生きていくと伝えるために。
トランプが人種問題について本当に伝えたいこと
(Translated from "The NewYork Times" , 23 September 2016)
トランプ候補は黒人有権者へのアピールを積極化しているが、このほどその手法がいささか突飛なものになっている。
今週、同候補はニューヨーク市警の検問に関係した黒人の暴力死事件について連邦最高裁が人種差別的であったと断定したことを受けて、オバマ大統領の出生地に関する主張を取り下げるとした同候補の声明は話題をそらすためのリップサービスにすぎなかったと示唆し始めた。同候補によれば、彼の「運動」はすでに「全国民」を包摂しているという。ある地方におけるキャンペーンでは、オバマが当選する前は人種差別など存在しなかったとの主張を繰り広げている。
この有様で、果たして黒人有権者の票を集めることなど出来るのだろうか?
これらの行動はおそらく、トランプが実際には少数派の有権者たちに向かって語りかけてなどいないことに起因している。トランプは差別主義者である彼を支持することをためらっている白人の有権者に妥協しているにすぎないのだ。
1980(昭和55)年、政治ジャーナリストのAdam Clymerが主張するように、ロナルド・レーガンは「福祉の女王様(生活保護をなかば不正受給し、働かずに暮らす女性)」叩きをとりやめ、全米都市連盟(=全国黒人都市生活条件同盟)の機嫌を取る作戦に出た。これによって、レーガンは黒人に影響力を持つ幾人かの牧師の支持をも取り付けた。
しかし、黒人有権者は騙されなかった。結局、レーガンは黒人の支持をほとんど得ることが出来なかった。続く共和党候補者も同じような結果に終わった。そしてトランプも同じような状況にある。クリーブランドで開催された共和党大会には、実に18人(0.7%)の黒人代議員しか参加しなかった。これは過去100年以上と比べても最小の人数比である。
レーガンとは異なり、トランプは8月の全米都市連盟との面談をキャンセルしている。しかし、水曜日に催された米国における主要な黒人問題を扱った「街角」ミーティングには現れ、ここではFOXニュースのSean Hannityがソフトボールの問題を取り上げようと待ち構えていた。
Hannityでなくても、トランプの選挙運動にフルタイムで参加しそうな者があれば、それはトランプの信用を高めるのに十分であろう。ただ一点、ハニティーはトランプ候補に対して、具体的にどのようにして黒人の生活水準を高めることに貢献するのかと質問した。トランプは以下のように回答した:
我々には雇用が必要だ。切実に雇用を必要としている。今や、学校や教育、その他諸々のものがスラム街に必要であることも明らかだ。スラム街は―今や歴史上でも最悪の時を迎えているのだ。それは危険で、君が歩けば銃口の狙うところとなり、そうでなくとも君の子供が狙われるところとなる。つまりスラム街の解消は急務であり、多くの時間を割いてこれに取り組まねばならない。
トランプはまた、オバマ大統領および民主党の市長をシカゴの犯罪率を「アフガニスタン以上にした」として非難した(ただし、実際にはシカゴはアフガニスタンよりはるかに安全だ)。
では、犯罪対策の決め手とは?検問である。トランプは前ニューヨーク市長のRudy GiulianiはNY市警に任意検問権を与えたことによって「素晴らしい仕事をした」と称讃した。
ニューヨーク市の犯罪率は郊外とともに90年代には下落傾向にあった。検問とは関係がなかった。検問政策によってのべ450万人がボディチェックを受けたが、たったの6%が逮捕され、6%が後日の出頭を命じられたにすぎなかった。検問を受けた人の83%が黒人かスペイン系であった。
裁判所の裁定によって、検問政策は違憲であるとして完全に終了した。トランプはこれを残念に思っている。
今のところ、トランプ候補の声が黒人有権者の耳に届く予定はなさそうだ。ただし、同候補の真意は彼のマホニング郡および、さび付いた工業地帯を抱えるヤングスタウンを含むオハイオ州における選挙責任者、Kathy Millerによって代弁されている。
「私の考えでは、オバマ大統領が当選するまで人種差別は存在しなかったと思う」