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ポーランドの若者、SNSを駆使して右傾化に対抗

ポーランドの若者、SNSを駆使して右傾化に対抗

(Translated from "euronews", 12 Feburuary, 2016)

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(Quoted photo from "euronews")

昨年の暮れ、ポーランドは右派ポピュリスト政党が政権を奪取し、憲法裁判所と公共放送の掌握を試みている。しかし、学生のArtur Sierawskiはこう考えているようだ。

危機に瀕する民主主義?

Arturと友人らは物憂い気分だ。なぜなら、ポーランドの民主主義と法の支配が脅威に曝されていると感じるからだ。

右傾化はポーランドの世論を真っ二つに分断している。42%が「法と正義」政権の政策を支持しており、46%がArturが青年局長を務める「民主主義を守る会」を支持している。今日、彼はSNSに投稿するための写真を準備していた。

Artur Sierawski青年局長はこう語った。「我々はよく、歴史的な遺産の前で写真を撮影するんです。なぜって、こうした遺産は国民全員のものであり、特定の政党の所有物ではないということを示したいから」

Arturたちの抗議活動はポーランド中流階級の共感を集めている。先日は、Arturと友人らの呼びかけに応えて10,000人の市民が街頭を埋め尽くした。

「民主主義を守る会」は、与党が憲法裁判所の3名の判事をより保守的な人材に交代させようとした2015年11月に結成された。Arturはこの暴挙にぞっとしたという。「この時ほどポーランドの将来を憂えたことはありませんでした。私は歴史学者の卵ですから、こうした動きの帰結がある程度推理できるのです。とにかくこれはまずいと思いました」

同じく「民主主義を守る会」に籍をおくAdam Lewanskiは、「私が最も恐れているのは、ポーランド欧州連合と衝突することです。欧州連合に加入できたことは、ここ四半世紀における最大の政治的成果だというのに」

一方、政権は憲法裁判所のみならず公共放送をも幹部を右派陣営に置き換えることで掌握しようとしている。解雇された元幹部のひとりが、自宅でEuronewsの取材に応じた。

世界中のジャーナリストが抵抗

政治的理由による幹部の総入れ替えに対して、欧州のみならず世界中の報道関係者が抗議を続けている。欧州放送連盟は遺憾の意を表明し、欧州委員会も調査に乗り出した。

国営放送に務めていたMaciej Czajkowskiは「失業していしまいました。まず私とニュース部長の首が切られ……翌日からは津波でした*1……曲がりなりにも民主主義国として認められたいなら、報道機関、特に国営放送には裁量的な運営を認めなければなりません。もし政治家が番組の内容を自由自在に操作できるとすれば……それは民主主義国と呼ばれるべきではないでしょう……この道はいつか来た道であるだけに恐ろしく思います……ポーランドのラジオ、テレビ局は政府の新たな省庁に成り下がるのではないでしょうか。名前は、さしあたり"プロパガンダ省"でしょうか」

ワルシャワの喫茶店で、Euronewsは解雇されたもう一人の幹部、Jaroslaw Kulczyckiにも話を聞くことができた。彼はカフェにノートパソコンを持ち込み、国内にCMを配信する仕事をしていた。つい最近まで、彼の名は国営放送でも屈指のニュースキャスターとして知られていた。

ポーランドのメディアにおける言論の自由は間違いなく危機に瀕しています。以前からその傾向はあったのですが、与党の考え方は明らかに偏向しています。ルールそのものの変更を試み、テーブルをひっくり返そうとしているのです。もちろん、吟味の機会を与えることなく。我々は深刻な革命の只中にあると認識する必要があるでしょう」

カフェにいた市民たちもこの話を聞いていたが、必ずしも全員が彼の意見に賛成したわけではなかった。判事を引退したという女性、Kamila Thiel-Ornassは与党を支持すると前置きした上でこう語ってくれた。

「政権が交代する以前、公共放送は明らかに偏向していたわ。前政権の立場に立って、いつも左翼、リベラルの観点から意見を述べていたの*2……それでテレビは捨ててしまったわ。もう3年も見ていないけど、インターネットできちんとニュースは把握しているわ。バイアスに左右されることなく、自分が信頼したい情報を選べるもの」

憲法を破壊する政権与党

我々は再びArturに話を聞いた。彼によれば、民主主義運動の参加者たちこそが世論を代弁しているわけではないという。彼はこれから、政権与党「法と正義」を支持するEwa Kubasikと話をしに行くそうだ。

ポーランド社会は分断されている。もちろん、政権与党を支持するか否かを巡ってだ。そして両者はお互いに、あまり言葉を交わそうとはしない。貴重な機会なので、EwaとArturの会話に同席させてもらうことにした。

Ewa「私は愛国心を教えてもらったわ。強く、独立した主権国家ポーランドに暮らすことが私の夢なの。欧州連合の一員であっても、確固とした立場と価値観を持っているべきだわ。その点、与党の『法と正義』は信頼できると思っているのよ。」

Artur「でも、現政権は憲法を破壊しようとしているじゃないか……リベラルな前政権はあくまでも法に基いて3人の判事を指名したけど、大統領がその信任を拒否するなんて、象徴的な地位にすぎない大統領としては越権行為だよ」

Ewa「3人の判事を前政権が指名したのは、ちょうど選挙に負けて政権の座を追われる直前だったじゃない。これが良識に反していると思わないの?政権は、ただ選挙前に掲げた公約を実現しようとしているだけよ。選挙で信任された「法と正義」には、法と秩序を書き換える権利があるはずよ。それを憲法の破壊と呼ぶべきではないわ」

Artur「選挙の結果は誰だって認めているさ。でも、上下両院で勝ったからといって何でもしていいわけじゃないし、ましてや市民の自由権を制限していいわけでもない。それなのに彼らはそうしたんだ。その手始めに、手駒の政治家を使って"公共放送"を"国営放送"に塗り替えたじゃないか」

三権分立の機能停止

Euronewsは、憲法学者のMarek Chmajに取材を申し込んだ。彼はちょうど欧州委員会に現状を報告するレポートを提出し終えたところだった。

欧州委員会では、ポーランドの現右派政権とDuda大統領が欧州連合の規定する民主主義、三権分立の要件を満たしているか否かの調査を進めている。

ワルシャワに住むMarek Chmajはこう語った。
「Duda大統領のやり方は常軌を逸しています。なぜなら、民主主義国家はつねに司法、立法、行政の三権が分立されていないといけないからです。この点、ポーランドは大きな危機を迎えています。民主政はサッカーのようなものかも知れませんが、サッカーもルールがなければスポーツたり得ないでしょう」

Arturの両親が住む実家は、ワルシャワからたった1時間で行ける村にある。Arturは弱冠22歳にして消防団の隊員でもあり、赤十字勲章を授けられたこともある。

しかし、祖国ポーランドを救うことはできるのだろうか。

「僕たちの民主主義運動を政党に回収されたくはないんです。あくまで憲法と民主主義を守ることが目標なんです」

Arturの母Mariola Sierawsaはこう話す。「私たち夫婦は、"法と正義"に投票しました。でも今では間違いだと思っています。正反対に意見を変えました」

父のMarek Sierawskiは「息子に何か災難がないかと心配でなりません。政権与党が民主主義者であることを祈るしかありません――少なくともArturに危害を加えない程度には。そうでもないと、この歳で息子の送り迎えをしなきゃいけなくなります」

Arturはやり手のビジネスマンのようにタスクをこなしている。政治活動以外に、アルバイトやロードレースの訓練も怠らない。最近の24時間耐久レースでは3位に輝いた。息をつく暇もないが、今度は鉄道を併用したポーランド横断マラソンを計画しているという。

Arturは、全国にあますところなく民主主義、自由権運動の基盤を確立することで祖国の役に立ちたいと話す。

「鉄道に乗って、街という街をめぐるんです。そして、"民主主義を守る会"に賛同してくれる若者と話す。意見を交換して……新しいアクションに繋げるんです」

欧州委員会欧州評議会は、ポーランドに対して一段と緻密な調査を続けている。その結果は、3月にも公表される見込みだ。

 

*1:next day it was a tsunami

*2:訳註:この意見は現政権の見解と一致している。ポーランドについての過去記事を参照のこと。