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ドナルド・トランプを英国から追放せよ!(下)

ドナルド・トランプを英国から追放せよ!(下)

(Translated From "Foreign Policy", 15 January 2016)

www.authority.tokyo

 

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他の欧州諸国と同じように、英国もムスリム社会との不協和音に苦しんでいる。過激派は各地で聖戦を呼びかけており、政府は国内のイスラム教徒、特に若い女性に対してこうした宣伝に惑わされ、シリアに渡航したりジハード戦士と結婚したりすることのないよう説得することに追われている。ロンドン同時爆破事件以来、政府はイスラム主義者によるプロパガンダと戦い続けている。本来、英国におけるムスリムの代表は一般的な中産階級、あるいは実業家や専門家、教授、そして多くの敬虔なムスリムたちである。彼らは過激派の主張するサラフィー主義や反西洋主義、反ユダヤ主義、その他すべての"イスラムの勝利"を標榜するあらゆるイデオロギーに興味がないのだ。しかし、差別主義者は「パリのテロ事件はじきに英仏海峡を渡る」と主張し、激しく動揺している。ロンドン市警によれば、ムスリムに対する放火をはじめとする犯罪行為が、先月は1日に10件以上発生した。

トランプは軽い気持ちでムスリムを追放せよと言ってみたのかも知れないが、この発言は英国に適応し、平穏かつ静かに毎日を送っている200万人のムスリムを侮辱したのみならず、近年の反リベラルの潮流、主に外国人嫌悪や差別主義を警戒する多くの人々、そしてあらゆる外国人・移民への宣戦布告に他ならなかった。キャメロン首相はトランプを「人心に不和を引き起こす、愚かな、そして間違った人物」と切り捨てた。同じ保守主義陣営の大統領候補に向けられる言葉として尋常ではない。

英国の移民法に基いて、内務省は海外から入国する"公益に適わないと考えられる"あらゆる人物の入国を拒否できる。政府による『出て行け!』という意思表示は、常に政治的な判断であり続けた。チリの詩人Pablo Nerudaやロシアの作曲家Dmitri Shostakovichは冷戦時代、その極左的な偏偏向を理由に入国を拒まれた。また、ハリウッド・スターのGeorge Raft やTV番組で人気を博した料理人のMartha Stewart*1のように、理由をまったく示されなかった例もある。他にも、内部告発者のエドワード・スノーデンやボクシング選手のMike Tyson、ラップ歌手のBusta Rhymesが入国を拒否する通知を受け取った。

現実的には、トランプ候補が共和党代表に選ばれる可能性は低い。また、英国をはじめとするリベラル諸国が、たとえそれが強烈な反イスラム主義を示すものであっても、その発言内容を理由に入国拒否を決断することは困難だろう。むしろ、こうしたトランプ候補の一連の発言が多くのリベラルな政治家や公人、そして支持率の低下に苦しむキャメロン首相に反論の機会を与え、今まで十分に議論されてこなかったムスリム現代社会への適応をめぐる諸問題により深い検討の機会を与えたことに注目したい。

しかし、イギリス政府がMartha StewartやMike Tysonの入国拒否を継続するのなら、少なくとも政府は"民主主義はイスラム過激主義やトランプのような排外主義を、両者とも一切許容しない"との声明を発表するべきだ。トランプの一連の発言は、当然のごとくイスラム国の募兵用ビデオに活用された。もし彼の入国を禁止すれば、イスラム国への誘惑に駆られている多くのムスリムに対して、自由世界はあなたの敵ではない、我々は過激派と敬虔なムスリムを明確に区別している、というメッセージを発することができる。

12月中盤、トランプ入国拒否への声が高まる中、トランプは「ロンドンの通りには、イスラム教徒のせいで立ち入ることも出来ないスラムがある」と発言し、排外主義的な姿勢をさらに上塗りした。これを受けて、ロンドン市長Boris Johnsonは「ニューヨークの一角には、私が絶対足を踏み入れない地域がある。ドナルド・トランプに出くわすかも知れないからね」と応酬した。Boris市長を好きではないという市民は珍しくないが―今回ばかりは、市長とアールグレイ*2を共にしたいという国民も少なくないはずだ。

foreignpolicy.com

*1:のちに有罪判決を受けた。

*2:訳注:紅茶の一種