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ドナルド・トランプを英国から追放せよ!(上)

ドナルド・トランプを英国から追放せよ!(上)

(Translated From "Foreign Policy", 15 January 2016) 

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(ロンドン)来る月曜日、いよいよ下院は一大叙事詩の幕を切って落とそうとしている―題名は、「トランプ対英国議会」とでも名づけておこうか―それはまるで、ヴィクトリア朝時代の歴史家Lord Macaulayの言葉、「これほど堪えがたく滑稽な芝居*1は他にない―道徳に思いを馳せる英国市民として」を思い起こさせるかのようだ。1月18日、各方面の名誉ある論客たちが勝負に出ようとしている。彼らはマイクを握り、言葉を振り絞り、政府に訴えるだろう。ドナルドという男を英国から叩き出せ、と。

大西洋のみならず、ほぼ全世界の政治家、そして市井の人々が既に目にしたことだろう。ここ半年の、次々とエスカレートするトランプ候補のプロパガンダを。しかし、彼が「イスラム教徒の入国を禁止すべきだ」と言ったとき、彼は明確に一線を踏み越えてしまった。もっとも、大統領候補の討論というのは以前から、こうしたパフォーマンス、人気取りの見本市じゃないかという声もあるだろう。ごもっともだ。また、他の候補は慈悲深い反差別の立場を演じながらも、英国が実際に直面している移民の問題については何も解決策がない、という声もあるだろう。その通りだ。さらに、言論の自由を擁護しているはずの国家が、トランプ候補の発言を理由に入国禁止をしてよいものかという懸念もあるだろう。そうかもしれない。しかしながら、それでも英国はドナルド・トランプの入国を禁止するべきだ!*2

確かに英国人は、イスラム教徒の権利に熱心なほうではないかもしれない。2005年7月には、ロンドンにおけるイスラム主義者によるテロにより52人の国民を失った。チュニジアでは、休暇を楽しんでいた英国人がイスラム主義者の手によって殺害された。また、国内に潜伏するジハード主義者たちは、今やイスラム国の名産品と化している恐ろしいビデオで国民を脅迫し、若い男女を彼らの聖戦へと誘惑している。しかもそのビデオには、無残にも斬首された英国人の人質が映されていた。

それでも、ムスリムたちは我々の―国家議員、市長、大臣、ジャーナリスト、映画監督、スポーツ選手の―隣人なのだ。彼らと我々は一心同体だ。英国は既に、入国禁止者の長大な名簿を持っている。たとえばPastor Terry Jones、これはネーション・オブ・イスラム*3の代表、 Louis Farrakhan氏に「コーランを燃やしてやる」と脅迫してみせた人物だ。トランプも同罪だ。しかし、両者とも英国内の200万人のムスリム市民に対して、「アメリカに入国するな」と言ってのけたことはなかった―今までは。この蛮行に対し、今や首相も官房長官も、そしてスコットランド国民党から緑の党に至るまであらゆる政党の党首が怒り心頭に発している。ある者は、勇敢にもこう言ってみせた。「トランプが我らが友をアメリカから追い出すと言うのなら、まず奴自身にその意味を思い知らせてやる!」

今のところ、57万人の国民がトランプの入国禁止を求めるオンライン署名にサインし、議会が請願を取り上げる基準である10万を優に超してみせた。*4もし緊急の国民投票が行われれば、トランプが英国から叩き出されることにほぼ疑問はないといっていい状況だ。

しかし、下院が審議すれば―投票を伴わない"話し合い"を済ませてしまえば―それで終わりだ。政府は何もしないだろう。審議はウェールズ選出の労働党の老議員が、存在感を維持するべくここぞとばかりに提出したが、残念なことに、トランプには多くの味方がいる。数々の東欧の政治家や神父がイスラム教圏からの難民受け入れの停止を主張している。スロバキアの首相は、イスラム教徒の入国を望まないと発言して"欧州のトランプ"の座を射止めた。こうした頑迷な有力者たちを、英国はその影響力ゆえに、未だに入国禁止リストに加えられていない。

トランプの発言には、我々の古傷をくすぐるものがある。英国にも"過去"があるのだ。100年以上前、当時の首相Arthur Balfouは、東欧のユダヤ人を英国に入国させまいと試みた。彼は「工業、社会、知的活動―何らかの分野において我々の共同体に貢献するのでない限りは、誰の入国も認めるべきではない。」と言ってのけた。彼の法案は下院を1905年に通過した。彼はトランプとよい友人になれるだろう。

しかし、今や英国は人種、宗教における寛容さを誇る国へと生まれ変わっている。そして、寛容さは多くの苦労を伴いながらも、着実にこの国を善くしているのだ。党首選に破れたムスリムの閣僚、Sajid Javid大臣や、時期ロンドン市長の有力候補Sadiq Khan、そしてムスリムの指導者として知られており、最近テレビ番組「グレート・ブリティッシュ・ベイクオフ」にて優勝を勝ち取った労働党の Nadiya Hussain議員など、ムスリムは現代イギリスの欠かせない一部分となっている。それはかつては国教会に弾圧されたカソリックや、そして1930年に入国が許可され、それでもなおデイリー・メールに「ドイツ系ユダヤ人が続々と入国している」と題して「宇宙人」とレッテルを貼られ、英国へ「トロイの木馬」を仕掛けられていると謂れなき憎悪を向けられたユダヤ人のような存在なのだ。(つづく)

www.authority.tokyo

foreignpolicy.com

*1:訳注:トランプ候補の一連の発言を指していると思われる。

*2:仮に大統領選挙の期間だけであったとしても。

*3:訳注:アメリカの黒人イスラム教組織

*4:実は12月10日以降、この署名は政府のサイトで最も指示を集めている署名となっていた。